筑波山斜面温暖帯の移動観測

研究

(2025/6/7 公開)

パソコンのデータを整理していたら、昔に自由研究的に観測をした成果を発掘しました。論文になることもないけれど、捨てるにはもったいないデータですので、記事にして供養します。

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筑波山斜面温暖帯

みかんの栽培の「北限」として知られている筑波山ですが、それを可能にするのが「斜面温暖帯」だそうです。

みかんは比較的温暖な気候の地域で栽培が可能になるということで、冬に厳しい寒さを受けると樹木がダメージを受けてしまうそうです。そのため、露地栽培では、冬の寒さが緩やかであることが栽培の条件に。(近年の温暖化に伴い栽培北限は北に移動しており、現在は佐渡島という見解もあるようです:参考

一般に、気温は標高が高いほど、下がっていきますが、夜間から早朝によく晴れた場合には放射冷却により地表付近の気温がよく下がることになります。これにより、地表付近のほうが、上層に対して気温が低いことになり、一般的な気温の鉛直構造とは異なるので、「逆転層」と呼ばれるそうです。

詳細はこちらのサイトが参考になります。

観測してみよう

もう昔のことで、なんでこのような観測をしたのか、よくは覚えていません。ただ、当時はよく筑波山に登っていたこと、またアルバイトを通じてGNSS観測に興味を持っていて、授業で斜面温暖帯を知った(?)こともあり、実際に観測してみようと思い立ったのかもしれません。

観測の概要を下にまとめておきますが、筑波大学付近を自転車で出発し、筑波山の麓まで自転車で移動、そこから徒歩で筑波山(女体山頂)を目指しました。GNSS観測による座標と、温度観測結果は別々の機器により取得していますが、観測前に時刻あわせをしてあり、両者は時刻をキーにして突合しています。

【観測の概要】

  • 観測日:2017/10/18
  • 時間:7:45~10:00
  • 観測の方法:リュックサックにGNSS観測機とロガー温度計をつけて、自転車および徒歩で移動
  • 観測間隔:30秒
  • 留意事項:気温観測について、強制通風や、日射対策をしていない。

ルートマップ(背景図:地理院地図 標準地図)

時刻と標高

観測結果

観測結果を図示してみます。

ArcGIS Proを使用して、3次元の地図に重ねてみました。地図にプロットされている球が、各観測点であり、気温をカラーで示しています。手前を流れているのが桜川で、この付近から筑波山の麓まではあまり気温は変わらず14℃前後で推移しています(途中に赤い地点がありますが、コンビニに立ち寄ったようです)。

ところが、筑波山を登り始めると、気温は15℃を超え、黄色い地点が目立つようになります。

筑波山を南側からみたときの図。手前を流れるのは桜川。(背景図:地理院地図 航空写真)

少し違う角度から眺めてみましょう。麓から登り始めて、標高50mくらいに達したあたりから、標高300mくらいの間に気温の高い領域があるようです。麓の水田の地帯と比べると、+2~3℃くらいでしょうか。これまでに文献で示されてきた結果とも整合的です。

筑波山を南西側からみたときの図。麓から少し上がったところから、筑波山神社のあたりまで、気温がやや高いことがわかる。(背景図:地理院地図 航空写真;等高線は基盤地図情報DEM10Bより作成)

気温と標高の関係をプロットしてみましょう。下の図を見てみると、地表から標高250mくらいまでの区間で、逆転層が発生している様子が明らかに確認できます。

気温と標高の関係

ただし、観測結果を見るときに、注意する点があります。下の図には、気温の時系列変化を示しました。今回の観測は、合計2時間(筑波山区間は1時間30分程度)におよんでいます。この間、日の出とともに気温が上昇する時間であり、空間的な気温の変化は、時間的な変化も含んでしまっているということに注意が必要です。

筑波山から約20km南へ、つくば(館野)における気象観測データをみてみると、8時から9時にかけて、気温が4℃ほど上昇していることがわかります。そのため、筑波山斜面で見られた温度上昇は、部分的には時間的な変化による上昇も含んでいると考えるべきでしょう。しかしながら、時間的な変化の上昇幅を超えた、大きな気温上昇であるとも考えられ、やはり部分的には空間的な気温の上昇、すなわち斜面温暖帯の存在を捉えているのではないかと考えます。

気温と時間の関係(移動観測とつくばアメダスの比較)

まとめ

2017年に観測したデータを紹介しました。私が学部3年生のときのことです。筑波山は観光地の山とイメージされると思いますが、麓から登っていくと結構キツいもので、もう私はこのころのようにスピーディーには登れないでしょう。時間変化の影響を除くためには、なるべく速く登っていく必要がありますが、もう無理でしょうね。

ちなみに、あと3回分の観測データも発掘しましたので、また紹介しようと思います。よく覚えていないのですが、一時期、筑波山斜面温暖帯に取りつかれていたのか、暇だったのか・・・

身近な地学、気象観測の事例として、紹介しました。ここまで読んでいただいた方に、なにか参考になることがあれば幸いです。

参考文献・サイト

  1. 筑波大学 気候・気象学分野 気候システム研究グループ 筑波山 斜面温暖帯の紹介 -筑波山でみかん狩り- https://www.geoenv.tsukuba.ac.jp/~climate/mikan.html (2025.6.7 閲覧)
  2. YUIME Japan みかんの栽培地の北限はどこ?https://yuime.jp/post/bigin-mandarin-cultivation-northern-limit (2025.6.7 閲覧)
  3. 気象庁 過去の気象データ検索 https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php?prec_no=40&block_no=47646&year=&month=1&day=17&view= (2025.6.7 閲覧)
  4. 国土地理院 基盤地図情報 https://service.gsi.go.jp/kiban (2025.6.7 閲覧)

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